近況報告を兼ねて 老人ホーム考

こじんまりした小規模の老人ホームでは、日々起こる出来事がいつの間にか速やかに情報共有されている。 これにはいい面わるい面両方あるのだが、とかくプライバシーを重んじるという美名の下に孤立しがちな高齢者にとっては、案外具合の良い環境なのかもしれない。 住宅型の当ホームは、ほとんどマンション住まいと同様の自由度が保証されるとともに、食…
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懐かしい「世界名作の旅」

旅と本は私のなかで一体どこで結びついたのだろう。 朝日選書の「世界名作の旅」、上下二巻それぞれを古本屋二店にネット注文した。 昭和39年11月より朝日新聞日曜版に連載されていた記事をまとめて本にしたものだ。 素晴らしい連載だったので、このように本のかたちで残っているのはうれしい。 すでに文庫本が出版されているので…
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「武器輸出と日本企業」を読んで

ロシアによるウクライナ侵攻後、各国は軍事力強化の方針を打ち出している。 戦争による惨状を目の当たりにしても、軍備縮小について話し合うべきだ、とする意見は今日ではどこにも見当たらない。 そのような主張は、寝言か世迷い事と受け取られるばかりだ。 平和を維持するための抑止力は軍備増強によってのみもたらされるというのが、主流の…
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ファッションの歴史を繙く 「ウィメンズウェア100年史」

  戦前のパリそして保養地の美しさは格別だったらしい。 風景の美しさに相まって、そこに集う有閑階級のとびきりのおしゃれは、今日のカジュアル一辺倒の大衆社会からすれば、めくるめく異世界であったに違いない。 何度もパリに通い服飾の勉強を重ねた、洋装の草分け、故原のぶ子氏の話である。 本書は20世紀より今日までのファッ…
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絵画で読む『失われた時を求めて』

世界一長いといわれる小説を読む気になったのは、リハビリのため転院した病院でのことだ。 3か月の入院生活を「失われた時を求めて」を読んで過ごそうと考えたのだ。 新潮社版の井上究一郎訳である。 一部新訳の岩波文庫版と読み比べてみて、この長大な小説を文庫本で読むのはなにか味気ない気がした。 それもプルーストの息の長い文…
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読書会という幸福

読書会の記録であり、誘いであり、ブックガイド、読書会を成功させるヒント集である。 著者の文章は平易でとても読みやすい。 というのも著者が翻訳家であるからだ。 実際、著者が参加する読書会は、翻訳家が多く、翻訳によって原文の味わいがいかに違ってくるかよくわかる。 課題図書のほとんどが、いわゆる世界名作全集に入っているよう…
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病院にて

「若いでしょう・・・?」 「う~ん、そうでもないわ。たくさんの人に会う仕事だから、よく分かるのよ。 手とか首とか見ると」 なるほどなあ。私は目ばかり見て、医師の華奢な印象にとらわれていたのだ。 ケアマネージャーに付き添われて、4カ月ぶりに執刀医に受診した。 私はOさんのアドバイスに従い、質問事項を絞ってメモしてきていた。 …
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源氏物語を繙くように「マルタの鷹」を精緻に読み解く

「マルタの鷹」は、非常に難解なハードボイルド探偵小説だった。 消化しきれない謎がたくさん残った。 その構成から登場人物の行動及び心理まで、完全に腑に落ちたという感じがしないのだ。 探偵小説なら、事件の犯人、その手口、動機など真相が判明し、最後に大団円を迎える。 ところが「マルタの鷹」はそうはいかない。 予定調和、…
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読めますか? 難読漢字 「孑孑」or「孑孒」?

「大角豆」読めますか? さすが、難読漢字を書きだしてくれたY氏。 「ささげ」だそうです。 「発酵の会」で、発酵食品の味噌を使ったお菓子を頂いた後、皆で難読漢字を片っ端から読んでみました。 読めそうで読めない難読漢字。 頭をひねり、最後はやはりスマホで検索することになりました。 ほとんどが日本流の当て字…
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只今、ホームに帰ってきました

昨日ホームへ帰還。 「お母さまは?」 スタッフに聞かれたが、母は最初からホームへ入る気などさらさらない。 「ここは私の家です!」 と、この時ばかりは語気強く、自己主張する。 妹と私は顔を見合わせて、その勢いに思わず笑ってしまうのだった。 確かに集合住宅のホームと比べれば、地面に「足の着いた」家は秋になると虫の音に…
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現代史を読む 「首都復興ならず」「アパレル興亡」

戦後から今日に至る現代史を、都市計画とアパレル産業の盛衰を通して概観することになった。 前者は「東京復興ならず 文化首都構想の挫折と戦後日本」 スクラップ&ビルドを目まぐるしく繰り返してきた東京の姿を、経済と文化志向の対立軸から検証する。 著者は「おまつりドクトリン」の一語をもって、戦後の復興が、文化よりも経済成長に軸…
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人生100年時代

「人生100年時代」と言われてもピンとこなかった。 ホームを訪ねてくる人に「老人ホームって、老人でなくても入れるのですか」と聞かれたこともある。 私自身も老人ホームという言葉は現状に見あっていないし、印象もよくないので、言い方を変えるべきではないか、とホーム長と話したことがあった。 私の今住んでいるホームには…
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マルタの鷹 アンダーステイトメントとは

ハードボイルドミステリ「マルタの鷹」は、秋の夜長に、じっくりと小説を読む楽しさを存分に味わわせてくれる。 著者のダシール・ハメット自身は、自作の中では「ガラスの鍵」を最も気に入っていた、とされている。 「マルタの鷹」は、ハンフリー・ボガード主演、ジョン・ヒューストン監督で映画化されており、あるいはそちらの方でよ…
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忘れえぬ人々

なかなか自由に外出できない身になってみると、ちょっとした誘いにも躊躇する自分が情けない。 何と友達がいのないことだろう。 不甲斐なく感じながら、会いたい人の顔を思い出すことがある。 そういえば「思い出す人々」という本があった。 内田魯庵の著作だが、国木田独歩の「忘れえぬ人々」と混同していて、念頭にあったのは後…
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近況報告 手術をふりかえって

診察室に入るなり、H先生がパソコンの画像を観ながら、頭を抱え込んでいる姿が目に入った。 「〇〇さん、これは難しい手術だよ~」 私の方が、未だ痛みもなかったので、平静に受け止めていたように思う。 H先生は、亡くなられたY先生のあとをついで、ことの流れで私を診るようになっていたのだが、これまでの経緯をすっかり知っているわけ…
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藁布団の話

今季の暑さは殊に異常だったようだ。 「ようだ」と言うのは、運動はもっぱら館内廊下を歩くにとどめ、ほとんど外歩きをしなかったからなのだが。 それでも汗かきの私は、20分も歩くと、背中をツツーと汗がしたたり落ちる。 シーツの頻繁な洗濯は欠かせない。 そこで、肌に直接触れるベッドパッドに、麻製品を買い求めた。 中ワタ…
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エリザベス女王の死に臨んで

エリザベス女王が8日夕刻、死去された。 96歳という高齢でありながら公務をこなす姿に、誰もが敬意を覚えていたことだろう。 滞在先のスコットランドはバルモラル城で、穏やかに迎えた最期だったという。 英国の人々の喪失感は、察するに余りある。 エリザベス女王の死によって、英国王室の求心力の失墜は免れ得まい。 振り…
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バブル世代回想

「あの人、(大手町の)本社から自宅のある長野まで、タクシーで帰っちゃうんですよ。上司のことは言いたくないんだけど・・・」 そういうSさんは、出社前にはすべてのコンセントを抜いてから家を出るという。 プリペイドカードには三千円以上チャージしない。 現金も三千円以上は持ち歩かない。 なるほどSさんとバブル世代はそこまで違うのか…
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生物から見た世界

夕食後は、ダイニングに腰を据え、本を読むなり新聞に目を通すなりして、小一時間を過ごすことにしている。 6時半を過ぎると、おやすみなさいの挨拶を交わして、ほとんど自室に引き上げてしまうので、ホームの夜はとても静かで長い。 サッシで遮られているはずなのに、どこからか虫の音が密やかに忍びこむ。 耳を傾けると大合唱にまで高…
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モード後の世界

そろそろおしゃれを楽しむ季節が近づいてきたというのに、服が売れない、という。 流行がないから、何を着ても自由だから・・・と。 断捨離が提唱され、一度モノを捨てると、今度買うのを控えるようになるのは当然だ。 もの選びに慎重になる。 白洲正子は晩年に、おしゃれは虚栄よ、と喝破した。 あんなにおしゃれだった人が、…
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京都の夏 グルメツアー 鱧料理

京都の夏のお料理といえば鱧。 関東ではあまり好まれる食材ではないのか、家庭でも一般に食卓に上ることは少ない。 で、鱧となれば京都、という、土地と食材が一体化したイメージがある。 東京の人間は夏だから鱧を食べよう、という気にはならないのだ。 春ならば筍、夏はイカや太刀魚、冬になれば脂ののった魚が出回る。 海か…
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夏祭りが帰ってきた!

コロナ、ウクライナに翻弄され、熱波に見舞われる地球。 ひとつとして良いニュースがない。 せめて日曜日の夏祭りについて報告して、未来への希望を託そう。 令和一年ホームに入居した年はまだ今のコロナを知らず、夏の祭りは、例年通り賑やかに行われた。 一昨年、昨年とコロナ禍に見舞われ、事態は暗転。 夏祭りは中止とな…
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ダシール・ハメットを読む

生涯にハードボイルドミステリの長編は5作しか書かなかったというダシール・ハメットが、自ら最も気に入っていたという作品が「ガラスの鍵」である。 よく知られているのは、ハンフリー・ボガード主演、ジョン・ヒューストン監督で映画化された「マルタの鷹」だろう。 ミステリに文学を求めるのは読者だけではない。 作者が読者以上に創作物…
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医師の裁量 去年の手術入院をふりかえって

手術の結果が思わしくなかったので、約一か月後再手術が行われることになった。 患者である私は全くの無気力に陥った。 再手術を待つ間は、手術室の空きが出るまで無為の日々が過ぎてゆく。 患者にとってマイナスの、全く無意味な時間が流れた。 足に体重をかけるリハビリは不可能だ。 (その待ち時間はさらに筋力の低下を招く) 再…
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継続は力なり

と、タイトルに書くと、いかにも偉そうだけれど、継続とは、同時に惰性にも偏執にもなり兼ねない。 昨年の後半5ヶ月と今年はじめの2ヶ月、リハビリ入院した。 リハビリ病棟は口の字型に病室が並んでいて、中央はナースステーションや浴室やトイレ、洗濯室、治療室などの機能が集まっていた。 その口の字の廊下を歩行練習のつもりでどれだけ回ったこ…
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「血の収穫」を読んで

ミステリーのなかでも、ハードボイルドは私の特別な一角を占めている。 ウエットな日本の風土がハードボイルドに適さないというのは偏見かもしれないが、日本の作家の作品へと向かうことはまずない。 ダシール・ハメットの長編第一作「血の収穫」新訳版を読んだ。 彼の影響を受けたレイモンド・チャンドラーの方が年上であることを今…
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ホームの日常

部屋の掃除はホームのスタッフに週1回お願いしている。 (当ホームは、介護事業所が同居している) これが介護付き有料老人ホームになると、ごみ処理と掃除は毎日のように行われるはずだ。 そこは住宅型と介護付きの違う点だ。 最大限プライバシーを守り、外出も自由というのが住宅型。 キッチンもあればバスルームもあるので、自…
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明日は立秋 孤独なリハビリ

こんな地味で苦痛なだけの運動なんて、先生の掛け声なしにはできない。 PTにそう言いながら入院中は営々とこなしてきたリハビリのプログラム。 退院後自主的に行うようになったら、継続するための鍵はただひとつ。 わずかでも成果を実感できるかどうかにかかっている。 筋力さえつけば、今までのように楽に歩けるはず。 主治医も執刀…
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読書日記 グルメツアー

夕食後もダイニングに居残って、きだみのる著「南氷洋」を読み終えた。 南氷洋捕鯨船団の雄姿に思いを馳せながら、やがてカメラアイとなった視線は個々の船へとズームする。 一旦、巨大な鯨に対峙すれば、一時の油断も許されない緻密な連携プレーによって、捕獲された海の王者は、食糧としての肉塊とオイルに分解されてゆく。 …
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漂流怪人 きだみのる

嵐山光三郎著「漂流怪人 きだみのる」を読む。 この読書からは、「モロッコ」や「気違い部落周遊紀行」を読んだ時の昂揚感とは別の感想を抱かされる。 それは編集者として嵐山光三郎の客観的な視線が捉えた人間きだみのるであり、その人間関係の葛藤であった。 きだみのるは、自由奔放にその精神を発露させ、旅へと赴いた。 何よ…
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