歴史ミステリーを読む 「時の娘」

ハヤカワ文庫、表紙絵の人物はリチャード三世。 ロンドンの国立肖像画美術館に所蔵されている一枚である。 一見して、一筋縄ではいかない、気難しい人物を思い浮かべてしまう。 敬して遠ざけてしまいがちな、ちょっと煙たい存在だ。 本書を読み進めるうちに、この肖像画の印象が微妙に変化してゆく。 リチャード三世と言えば、権力…
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医療の分業体制に思うこと

長い間、専門医である某医大の大学教授をかかりつけ医としてきた。 ざっくばらんに話しやすかったこと、そして手術の腕が良いことで、知り合いに紹介されて以来、30年以上のお付き合いになった。 その先生が亡くなられて4年になる。 享年80歳という名医の死は、私にとって大きな痛手だった。 笑いの効用、という持論の持ち主で、…
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フィリップ・マーロウを探して 「待っている」

本書はレイモンド・チャンドラーの短編全集(創元推理文庫)のうちの第三冊目。 長編7作を読み終えて、なおも私立探偵フィリップ・マーロウを探して、短篇集を漁っている私がいる。 短編全集「待っている」に収録されている5作品のうち、フィリップ・マーロウが出てくるのは「ベイ・シティ・ブルース」のみ。 本編は長編「湖中の女」の…
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医療におけるコミュニケーションの成否は患者のその後の人生を決定する

○○さん、退院したらだれか面倒見てくれる人ありますか? これが入院した私にPTが発した第一声だった。 えっ、と驚かなくてはいけないはずなのに、良くなることばかり考えていた私はさらりと聞き流していたのだ。 術後、不自由になる患者を想定しているとは! 他院のPTも 疑問を感じちゃうんですよ。 すたすた歩いて入院した人…
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ミステリーがいっぱい! 東西ミステリーベスト100

本書は、日本推理作家協会、大学ミステリークラブをはじめとしたミステリー愛好家のグループにアンケートを送り、集計をとったものだ。 昭和60年に週刊文春誌上に発表されている。 各作品に「あらすじ」と「うんちく」を付し、当時ミステリーガイドとしては「本邦唯一最高のもの」と自負されている。 初心者はガイドとして、マニアにも…
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近況報告 歳末のささやかな行事

今年は年内に植木屋さんが来てくれて、一気呵成に庭の散髪を済ませることができました。 草紅葉がきれい、などと荒れた庭を評して、強がりを言っていたのですが… あっという間に新年を迎える準備が整いました。 餅は餅屋、と亡父がよく言っていたのを思い出します。 若い力も交えて、8人の職人さんが力を合わせれば、つるべ落と…
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クレーヴの奥方

フランス心理小説の嚆矢とされる本書を一度は読んでおかなくては。 人間は内面などというものを、一体いつからのぞき込むようになったのだろうか… 或いは、いつ発見したのだろうか。 本書は16世紀に材をとって、貴族女性が書いたものだ。 クレーヴの奥方と呼ばれる女性がヒロインである。 年は16~17才。 確か静御前…
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聖夜は百年の時を遡る、贅沢な読書をしよう

完全な孤独と静寂が長時間確保されるという奇跡が訪れたなら、そのチャンスを逃してはならない。 (人生は短いのだから) 長い間、敬して遠ざけていた本を手に取ろう。 ページをめくれば既視感にとらわれる。 まるでプティット・マドレーヌを浸した紅茶から立ち上る香りが、膨大な記憶をよみがえらせるように… 「失われた時を…
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読書日記 懐かしい本  「ミステリの原稿は夜中に徹夜で書こう」

植草甚一の本は学生時代からよく読んでいた。 「ぼくは散歩と雑学が好き」「雨降りだからミステリでも勉強しよう」…etc. 肩の力の抜けたタイトルは暇な学生を大いに誘惑したものだ。 植草甚一が対象とするのは、ミステリ、ジャズ、映画などだが、特にミステリに関しては、膨大な読書量とその選択眼は驚異的だ。 早川書房の出版を…
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言葉の重み

たまたまN市に長い間住んでいたせいで、茨木のり子の詩とも縁ができたのだった。 書物との出会いも、人のそれと同じで、摩訶不思議な偶然と縁に左右される。 と、考えるとこわくもなる。 一生の間に読める本となれば限られてくるからだ。 友人から無印の本をもらった。 写真と数篇の詩とエッセイで構成された150ペ…
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執刀医の言葉

一口にセカンドオピニオンと言っても、なかなか難しい。 微妙な問題をはらんでいることは、経験者ならだれでも分かっていることだろう。 特にセカンドオピニオンを求めるケースは癌に多いようだ。 先日、悪性リンパ腫を舌癌と誤診された友人から、聞かされた話だ。 セカンドオピニオンを認めながら、いざ医療情報の提供となると、その作業があまり…
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事件屋稼業

ここに出来した場面は、どこに伏線が張られていたのだろう。 穴だらけのトリックがある一方、精緻に構成されたミステリーも「論理と演繹」を求めるジャンルの本質からして当然あり得る。 謎解きにモラリズムを持ち込んだハードボイルドに、神経質でマニアックな解釈はほとんど無用に思われることがある。 特にプロットよりシーンが重…
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詩のことば 「倚りかからず」

前に当ブログでとりあげた「清冽 詩人茨木のり子の肖像」には、茨木と交友のあった詩人、影響を受けた詩人の作品が多数引用されている。 初めて知る詩人もあった。 格別詩のコトバに敏感な詩人はすぐにわかる。 一方、茨木のり子の紡ぐ詩は、日常から生まれたコトバによって編まれ、異化作用の鮮烈さによって特筆されるような詩では…
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ニューヨーク・スケッチブック

短篇の味わいを十分に堪能させてくれる一冊。 秋の夜長に最適な… ニューヨークはマンハッタン 都会に生きる、あるいはうごめくと言ってもよいかもしれない。 群像劇を見ているような趣 6ページほどの短篇が、タイトルなしに35篇。 最後の35篇目は山田洋次を触発して映画作品「幸福の黄色いハンカチ」となったコラムで、…
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お分かりにならない人は、本当に分からないのか?

緩やかな進行なので、日々接している家族には分からない。 認知症のことである。 決して覚えることのないのは、自分の現在の歳だ。 「私、今いくつ?」 もう答えるのも面倒になっている。 テーブルの端に「96才!」と記したメモを貼り付けてあるのだが。 「え~、96才!?」 毎度最大級の驚きぶりだ。 そうかと言えば、子供の…
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清冽 詩人茨木のり子の肖像

本書は私にとって、いろいろな点で興味深いものだった。 積読してあった茨木のり子著「ハングルへの旅」を探していたのだが、何故かなかなか見つけることができなかった。 そんな折、友人が貸してくれたのが本書だった。 茨木のり子の名は広く知られているので下手な説明は省く。 2006年にくも膜下出血で急死した詩人の家…
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20世紀アメリカ短篇選

O.ヘンリーの短篇「最後の一葉」を知らない人はいないだろう。 階下の巨大なプランターに植えられたカツラの木が、熱射に炙られたこの夏、次第に枯れてゆくように見えた。 ダイニングのウッドデッキ越しに眺める度に、場所が場所だけに(ここは老人ホームなのだ)、柄にもなくセンチメンタルを発揮したわけでもないのだが いつの間に…
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ユダヤ人の歴史

ユダヤ人をどのように定義するかは難しい。 宗教、血統、言語、…etc.によって多様に考えられるからだ。 そのユダヤ人を差別迫害してきた歴史が本書に語られる。 現代編ではまだ歴史的に記憶に新しいナチズム、ホロコーストの経緯が述べられて、いったん社会が不安定化するや、差別感情というものが、ユダヤ人を対象に据えると圧倒的…
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二夫にまみえず 「儒教とは何か」

「私はもう結婚できないのです」 韓国より留学していた女性が、離婚していることを打ち明けた上で、そう語った。 30年以上前の話だ。 その頃は、まだまだ儒教的道徳律の縛りがきつかったのだろうか。 彼女がその軛をことさら深く内面化していたのか、儒教文化を説明しようとして少し大げさに言ったのか、よく分からない。 その後…
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旅と読書 「縛られた巨人 南方熊楠の生涯」

南方熊楠の、世間的常識を逸したエピソードの数々は、逆にこの知の巨人の真相を見えなくしているのではないだろうか。 人間の到達し得る「知の極北」とは。 伝記を読んだのも、その境界の一端なりとも伺えれば、と思ったからだ。 ちょうど今、NHKの朝ドラでは、植物学の大家、牧野富太郎の物語が放映中だ。 この二人の生物学の…
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読書日記 ラ・ロシュフコー箴言集

美徳は装おわれた悪徳である この警句から、気難しい批評家を思わない人はいないのではないだろうか。 あまりにも有名な一句は、いうまでもなくラ・ロシュフコーのものだ。 この句を含む「箴言集」を通読してみると、洞察力の深さ、冷徹な観察眼に圧倒される。 ラ・ロシュフコーは17世紀、フランスの王族にも連なる大貴族の…
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医師への質問状

忙しい医師に受診する際、病状についての質問事項をまとめ、予めメモしておくことが大事だ。 対面してからで十分と思うのは間違いで、意外に聞き落しが多いものだ。 診察予約日の4日前、友人からひとつ提案された。 質問事項を含め今の状態を説明する手紙を送っておいてはどうか、というのである。 事前に知らせておけば、医師からスムーズに答え…
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医者が「言わない」こと

半年以上お留守にしていたブログを再開しようと思いながら、早々にとん挫してしまいました。 術後の体調不良にPCの不調が重なりました。 ブロガーの皆様はお変わりなく更新し続けておられることと思います。 近況報告は、長くなりそうなので、またの機会に譲りましょう。 このページは、再開のご挨拶を兼ねて、近藤誠著『医者が「言…
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医師と患者は対等である  岸見一郎 著

股関節の手術後、リハビリに苦戦するうちに、何と2年2か月の年月が瞬くうちに過ぎ去りました。 無気力を脱し、宿命を生きる覚悟(大げさかな?)と諦めの境地を行ったり来たり… 医療制度、医療システムの問題点について考えざるを得ない日々でした。 術後のリハビリが思うような結果を生まず、落ち込みそうになる度に、お世話にな…
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クリスマスが年々早くなる

16時間絶食というのを試した翌朝、リハビリに行く。 短時間の絶食なので、大して辛くはない。 或いは眠りの質が向上したかもしれない、と思うがまだ効果のほどはわからない。 きっかけは養老孟司が、一週間に一度でよいと言っているのをYou Tubeで聞いてから。 将来新たな論文が発表されて、この理屈もいつか陳腐化するか、…
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近況報告を兼ねて 老人ホーム考

こじんまりした小規模の老人ホームでは、日々起こる出来事がいつの間にか速やかに情報共有されている。 これにはいい面わるい面両方あるのだが、とかくプライバシーを重んじるという美名の下に孤立しがちな高齢者にとっては、案外具合の良い環境なのかもしれない。 住宅型の当ホームは、ほとんどマンション住まいと同様の自由度が保証されるとともに、食…
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懐かしい「世界名作の旅」

旅と本は私のなかで一体どこで結びついたのだろう。 朝日選書の「世界名作の旅」、上下二巻それぞれを古本屋二店にネット注文した。 昭和39年11月より朝日新聞日曜版に連載されていた記事をまとめて本にしたものだ。 素晴らしい連載だったので、このように本のかたちで残っているのはうれしい。 すでに文庫本が出版されているので…
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「武器輸出と日本企業」を読んで

ロシアによるウクライナ侵攻後、各国は軍事力強化の方針を打ち出している。 戦争による惨状を目の当たりにしても、軍備縮小について話し合うべきだ、とする意見は今日ではどこにも見当たらない。 そのような主張は、寝言か世迷い事と受け取られるばかりだ。 平和を維持するための抑止力は軍備増強によってのみもたらされるというのが、主流の…
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ファッションの歴史を繙く 「ウィメンズウェア100年史」

  戦前のパリそして保養地の美しさは格別だったらしい。 風景の美しさに相まって、そこに集う有閑階級のとびきりのおしゃれは、今日のカジュアル一辺倒の大衆社会からすれば、めくるめく異世界であったに違いない。 何度もパリに通い服飾の勉強を重ねた、洋装の草分け、故原のぶ子氏の話である。 本書は20世紀より今日までのファッ…
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絵画で読む『失われた時を求めて』

世界一長いといわれる小説を読む気になったのは、リハビリのため転院した病院でのことだ。 3か月の入院生活を「失われた時を求めて」を読んで過ごそうと考えたのだ。 新潮社版の井上究一郎訳である。 一部新訳の岩波文庫版と読み比べてみて、この長大な小説を文庫本で読むのはなにか味気ない気がした。 それもプルーストの息の長い文…
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