ミステリに魅せられて 世界推理短編傑作集6

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「世界推理短編傑作集6」は、江戸川乱歩編の5巻に戸川安宣が加えた補遺としての最終巻である。
巻末の解説に、新訳が次々に登場するかげに、名訳が姿を消すのを惜しむ気持ちが述べられている。
訳者に対するリスペクトを表明した拾遺と言えよう。

時代の流れのなかで、新訳によって旧作が生まれ変わる。
作者はもちろんのことだが、翻訳者の苦労によって、読者もまた新たな楽しみを発見する。

本書には長編「大いなる眠り」のもとになった「雨の殺人者」が収録され、次にパール・バックの「身代金」が並んでいる。
レイモンド・チャンドラーのハードボイルドが推理小説の世界において、いかに革命的なことであったか、改めて思い知らされる。
文体は、作者の生理と姿勢を語るものだ。
内面描写はあまり重要視されず、登場人物の身体、行動、台詞が短いセンテンスで描かれる。
そこにユーモラスな味わいもまた生まれる。
深刻な犯罪の違った一面に気づかされる。
視点の変化によって新たな世界が生まれ、当然のことながら文体に影響を与える。

この里程標的アンソロジーによって、読者人口の増加とともに、探偵小説や推理小説の需要の高まりを教えられる。
「51番目の密室 またはMWBの殺人」には実在のミステリ作家が大勢登場して鎬を削る。
同じシリーズの作品を何人もの作家が手掛けるのも、このジャンルでは珍しいことではない。
ハウスネームと言うそうだ。
トリックの考案、キャラクターの創造、犯罪の動機への興味、…etc.
ミステリの形式は、様々な創造意欲をかきたてるのだろう。
シェイクスピア研究が本職のマイケル・イネスなどがミステリを手がけるとこうなる「死者の靴」
冒頭から読者をつかんで離さない。


※ 世界推理短編傑作集6 戸川安宣編 創元推理文庫(’22.2)

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