推理小説にもどってゆく 世界推理短編傑作集1

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推理小説がなければ、世の中味気ないものだろうと思う。
娯楽であり、逃避先である。
自嘲的にいえば、何の役にも立たない読書であり、あるいはそれだからこそ甘い蜜の誘惑に満ちている。

本アンソロジーは、東京創元社が推理小説の分野に乗り出したときに、「世界推理小説全集」の短編部分を独立させて刊行したものである。
すでに70年近く読み継がれていることになる。

刊行開始当時の編集顧問は小林秀雄。
この分野の監修者は、江戸川乱歩、植草甚一、大岡昇平、吉田健一であった。
その経緯は巻末に、東京創元社の社長であり、編集者、ミステリ評論家であった戸川安宣が記している。

エドガー・アラン・ポオにはじまるといわれる推理短編小説を時系列に並べ、その近代史が俯瞰できるような趣向になっている。
第一巻に収められているのは、初めの50年、19世紀半ばから20世紀初頭までの作品である。

様々な発展進化を経た推理小説の変遷の歴史を、ポオを始祖として成立した近代史のみで満足せず、ギリシア・ローマに遡って考証した、レジス・メサック著「科学思想の影響と探偵小説」という書物があることも教えられた。
現在、「探偵小説」の考古学、というタイトルで、1万円近くの高額、大部の書物になって刊行されている。
江戸川乱歩がその博識に驚嘆し、戸川康安宣が興奮したという書物を読まないではいられない。

第一巻の本書は、近代推理小説黎明期の作品群と言えるかもしれない。
ポオの「盗まれた手紙」に始まり、アントン・チェーホフの「安全マッチ」、アーサー・コナン・ドイルの「赤毛組合」などが収録されている。
ちなみに、ポオをフランスに紹介したのはボードレールである。
江戸川乱歩の序と戸川安宣の「短編推理小説の流れⅠ」(解説)が興味深い。

後続の作品へどのようなかたちで受け継がれてゆくか…
洗練とリアリズム、複雑さを加えて発展してゆく推理小説の世界は深い。



※ 世界推理短編傑作集Ⅰ 創元推理文庫(’18.7)

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