本格派を読む 「Xの悲劇」

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推理小説の古典、エラリー・クイン作の「Xの悲劇」を再読する。
海外では「Xの悲劇」の方に人気があるのに、なぜか日本では「Yの悲劇」がベスト100などで高位につける。

いずれも聴覚を失って引退したシェイクスピア俳優ドルリー・レーンが非公式の刑事、探偵役である。
ホームズ同様、キャラクターの魅力が本シリーズの最大のポイントだ。
本格派のお手本のような探偵小説も、その文学的味わいに大いに助けられている。
神は細部に宿る、というが
シェイクスピアの戯曲から引用される台詞が作品に奥行きを与える。

「読者に対してフェアプレーに徹する」というのが本格派の使命だそうだ。
解決に至る手がかりすべてを読者に明示するのが「本格派」の所以である。
(フェア・アンフェア論争を呼んで有名なのがアガサ・クリスティの「アクロイド殺し」だ)

事件のデータは小説の随所に配置され、それらを総合しつつ事件の真相に迫ってゆくというスタンスだ。
データは物語の進行に伴い、違った様相を帯び、スリリングな展開が飽きさせない。
伏線があちこちに張り巡らされているので、油断ができない。
迂闊な読者は或いは、マーカーで印をつけながら読むといいかな?

マンハッタンの観光案内として、交通網を想像しながら都市の空気感が味わえるという余得もある。

ミステリを読む喜びは、試験を明日に控えていたり、ぎりぎりのデッドラインを目前にしながらも抵抗できないもののようだ。
「役に立たない」読書こそ、最も楽しい。


※ Xの悲劇  エラリー・クイン 著  創元推理文庫(’19.4)

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