天使のゲーム


4部作のうちの第二部にあたる、「風の影」に続くカルロス・ルイス・サフォンの長編小説である。
「風の影」の圧倒的面白さは、錯綜したメタノベルの構成にあった。
本という形式を愛する読者は無意識のうちに期待している。
迷宮にも似た書物世界へ誘われ、たった一つの物語に遭遇することを。
論理的に述べられないことは物語るしかない。
物語の限界には果てがない。
読者はこの世の法則を裏切られ、混乱しつつも、あるひとつの結末を求めようとするものだ。
バルセロナを舞台とするこの物語の主人公は一体だれなのだろうか。
滔々たる人々の魂をのみこんできた都市そのものだろうか。
歴史や神話、伝説に彩られた群像劇にひとつの流れを与える物語作者の役割が、主人公に与えられる。
その宿命的な役割は、やがて主人公に不老不死という属性を与えることになるだろう。
すべてを見届けることになる残酷極まりない哀しみが主人公の宿命となるのだ。
先行する小説家たちの、書くことへの執念が凝り固まったような作品でもある。
作中で繰り広げられる神学論争はもはや陳腐であるが、バルセロナの旧市街の描写や登場人物の生々しい息遣いに魅せられる。
ミステリであろうがゴシックロマンであろうが、神は常に細部に宿るものだと思う。
物語のマジックを成功させるのは、構成もさることながら、描写の妙味にあることを本作によって思い知らされた。
フィクションと現実の交錯する、冒頭に掲げられた地図を片手に、バルセロナの町を歩いてみたい、と思うのは私だけではないだろう。
風景に刻み込まれた物語の痕跡を求めながら・・・
一方、物語を引き寄せる風景の力にインスパイアされつつ。
※ 天使のゲーム 上・下 カルロス・ルイス・サフォン 著
集英社文庫('12.7)
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