シャーロック・ホームズとジェレミー・ブレット

コナン・ドイルによるシャーロック・ホームズ・シリーズの熱狂的なファンのことを、一般にシャーロッキアンと呼んでいる。
そのシャーロッキアンがまずホームズ役の決定版としてあげるのがジェレミー・ブレットだ。
役者以上に名探偵のイメージを雄弁に体現したのが、シドニー・パジェット描いたホームズの肖像だろう。
その瘦身で神経質そうな風貌がホームズ像を決定づけたと思われる。
私と同様ジェレミー・ブレット以外のホームズ役者を知らない人が多いかもしれない。
テレビでよく再放送もされるから、もはやジェレミーはホームズそのものになりきっているようだが
実は彼はシェイクスピア俳優でもあるのだ。
過去の歴代のホームズ役者をみると、ドラキュラ伯爵だったり、シェイクスピア劇を演じる役者が多いことに気づく。
ゴシックの雰囲気、偏執的な志向、エキセントリックで神経質、・・・etc.
天才ホームズの性格は、常人からは著しく逸脱しているように感じられる。
そのキャラクターを十二分に表現しているのがジェレミー・ブレットだというのだ。
本書はシャーロック・ホームズ作品にそって、撮影秘話、見どころ、役作りの技術など、スタッフ、役者共々、ドラマがいかに作られていったかが語られていて、興味深い。
特にジェレミー・ブレットが緻密に役作りをする姿勢とその集中力は並ではない。
スタニスラフスキーシステムで訓練された人だが、内面の動機付けを重視する一方、様式的なスタイルに工夫を凝らす点も、抜群の運動神経にも驚かされる。
陽気で明朗、社交的な性格は、ヒーローの探偵像とは異なっていて、その落差に苦しむことも多かったらしい。
はまり役とみえたが、非常に演じ難い役だと語られているのが意外だ。
シリーズものを演じ、すっかりそのイメージが固定され、俳優としてのキャリアが終わってしまうことを恐れ、当初ホームズ役を引き受けることについては相当悩んだらしい。
結果は、決定版とも言われるホームズ像が誕生した。
写真が多数掲載されていて楽しめる。
何よりもワトソン役のデビッド・バークとの親密な雰囲気に魅了されたこのシリーズを再度観てみたい。
※ シャーロック・ホームズとジェレミー・ブレット
モーリン・ウィテカー 著
原書房(’23.11)
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