フィリップ・マーロウを探して 「待っている」

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本書はレイモンド・チャンドラーの短編全集(創元推理文庫)のうちの第三冊目。
長編7作を読み終えて、なおも私立探偵フィリップ・マーロウを探して、短篇集を漁っている私がいる。

短編全集「待っている」に収録されている5作品のうち、フィリップ・マーロウが出てくるのは「ベイ・シティ・ブルース」のみ。
本編は長編「湖中の女」のもとになった作品でもある。
チャンドラーはこのように中短編から長編作品を構成するということをよくやったらしい。

マーロウ以外の探偵だと、キャラクターが鮮明でないように思う。
マーロウが主人公の場合、すでに探偵は作品から自立して歩き始める。
これほどリアリティのあるヒーローは珍しい。
名セリフの数々にしびれたファンは少なくないはずだ。
(チャンドラーの引き出しは驚くほどたくさんあるのだ)

プロットよりシーンを書くことに傾注した作家だ。
暴力シーンがあまりに即物的、かつ克明に描かれると、逆に暴力そのものが抽象化されてみえてきてしまう。
(舞踏劇のようだ)
暴力と言えばダシール・ハメットだが、プロットの一部というより、台詞劇における台詞と同様、ひとつのコミュニケーションの道具とさえ錯覚させる。
それ以前の探偵小説と異なり、暴力を本当の暴力者の手にもどしたリアリズムだ。

ハードボイルドには戦争の影がある、と言われる。
戦争という暴力が、通俗的な探偵小説を文学へと脱皮させる、ひとつのきっかけとなっただろうことは容易に推測されるのだ。
「ベイ・シティ・ブルース」を読みながら、登場人物の関係を確認するため、何度かページをめくりなおした。
(年は取りたくないものです)

推理小説は論理的に頭が働く知的な読者を対象から除かなければならない。

レイモンド・チャンドラーはこうも言っているのだから、少しは安心してもいいだろう。


※ チャンドラー短編全集3 待っている R・チャンドラー 著 
                     創元推理文庫(’07.2)                                       

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