ミステリーがいっぱい! 東西ミステリーベスト100

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本書は、日本推理作家協会、大学ミステリークラブをはじめとしたミステリー愛好家のグループにアンケートを送り、集計をとったものだ。
昭和60年に週刊文春誌上に発表されている。
各作品に「あらすじ」と「うんちく」を付し、当時ミステリーガイドとしては「本邦唯一最高のもの」と自負されている。

初心者はガイドとして、マニアにも忘れているプロットを思い出させるきっかけになる。
テレビドラマにしろ映画作品にしろ、ミステリーはその過半を占めるのではないだろうか。
そもそも社会問題から人間心理に至るまで、リアルな世界そのものが謎に満ちているのである。
それでもなお人はミステリーを読みたいのだ。
単純にドラマとして完結することが約束されているし、事件の解決は読者にカタルシスをもたらすから、ドラマとしてこれほど格好のスタイルはないかもしれない。
それほど万人に認められている物語の形式なのだ。

フィクションからいつしか現実が照射され、読者に何事かを暗示しないとも限らない。
しかし、それはあくまで娯楽であり、現実の生活に何らかの効用があるとも思えない。
実はこの無益な読書が、その無駄ゆえに本能的に人を惹きつけるのではないだろうか。

仕事のため、勉強のため、何等かの目的をもってする読書にはない快感があるのは確かだ。
こんなに無駄なことに時間と労力を使っている自分ってなんだろう…
だれでも思い出せるのではないだろうか。
試験の前に、無関係な読書にふける楽しみを。

文庫本専用の本棚の天井近くに、あるある、本書にも挙げられている定番の探偵小説群が。
すっかり日焼けして、うっすら埃をかぶっている。
ほとんどが翻訳だから、とっくに新訳が出て、陳腐化している。
新訳は図書館で借りよう。
それにしても、こんなに息の長い文学形式はないだろう。

ミステリーを文学の域にまで高めた先人たちの苦闘の歴史を思えば、
娯楽としての読書、現実逃避の読書だとしても、その労苦に報い、私たちに勇気を与えてさえくれるのだ。



※ 東西ミステリーベスト100  文藝春秋 編  文春文庫(’86.12)

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