ユダヤ人の歴史

ユダヤ人をどのように定義するかは難しい。
宗教、血統、言語、…etc.によって多様に考えられるからだ。
そのユダヤ人を差別迫害してきた歴史が本書に語られる。
現代編ではまだ歴史的に記憶に新しいナチズム、ホロコーストの経緯が述べられて、いったん社会が不安定化するや、差別感情というものが、ユダヤ人を対象に据えると圧倒的なジェノサイドに発展するのはなぜか、という問題について考えさせずにはおかない。
ユダヤ人の2千年に及ぶ「流浪」の歴史が、徳間文庫版3冊によって詳述される。
著者は今年初め94歳で死去したイギリスの歴史家・ポール・ジョンソン。
現代篇はジャーナリストでもあった筆者らしく、今日のパレスチナ問題が分かりやすく簡潔に解説されている。
流布された偽書に「シオン賢者の議定書」がある。
今もまことしやかに引用されるこの本の名前を知らない人はないだろう。
本書はこの本の起源を次のように説明する。
1890年代のある年、パリ駐在の諜報員が、ユダヤ人の脅威の実体をニコライ2世に提示するために用いる文書の捏造を依頼された。誰であったかは不明だが、捏造者が用いた文書は、ナポレオン3世が世界制覇の野望を抱いているという、1864年に書かれたモーリス・ジョリーのパンフレットであった。原文はユダヤ人に関して一言も言及していなかったが、この文書でナポレオン3世は、現代の民主主義を利用することにより目的は近く達成されると語るユダヤ人指導者たちの秘密会議に置き換えられた。
陰謀史観、特にユダヤ陰謀史観は、未だに根強くカルト教団などで主張されることが多く、またそれにあっさり感化されるナイーブな人がいることは驚くばかりだ。
玉石混交の様々な情報を、批判的に読むには、それなりのリテラシーが必要だ。
意外な人が、疑わしい情報をいとも簡単に信じてしまう背景には一体何が潜んでいるのだろうか。
関東大震災では、少なからぬ韓国人が市井の庶民に虐殺されている。
防災の日特集をテレビで観て、当時の教育レベルの低さを指摘するのは容易い。
教育そのものが時代の所産であり、それ自体にいろいろなバイアスがかかっていることは避けられない。
歴史観そのものが時代の制約を逃れられないのだ。
歴史については大いに懐疑主義者であるべきだろう。
シオン賢者の議定書は、フランス革命を見事に解き明かしてみせたという。
人は分かりやすさに抗いがたい。
ヒトラーの登場は民主主義的なワイマール共和国においてであったことを忘れてはならない。
※ ユダヤ人の歴史[古代・中世篇]選民の誕生と苦難の始まり
ユダヤ人の歴史[近世篇] 離散した諸国で受けた栄光と迫害
ユダヤ人の歴史[現代篇]ホロコーストとイスラエルの再興―交錯する恐怖と希望
ポール・ジョンソン著 徳間文庫(’06.12)
この記事へのコメント