懐かしい「世界名作の旅」


旅と本は私のなかで一体どこで結びついたのだろう。
朝日選書の「世界名作の旅」、上下二巻それぞれを古本屋二店にネット注文した。
昭和39年11月より朝日新聞日曜版に連載されていた記事をまとめて本にしたものだ。
素晴らしい連載だったので、このように本のかたちで残っているのはうれしい。
すでに文庫本が出版されているので、とりたてて文学好きでなくとも手にとってみる価値があると思う。
朝日新聞日曜版掲載の「世界名作の旅」を夢中になって読んでいたのは、当時13歳になったばかりの私だ。
これらの文章が背伸びをしはじめた中学生に、その後の読書傾向の水先案内人になったように思う。
あまりにも幼稚な読み手であったために、無論十全に理解していたとは言い難い。
それでも処女地のように未開な土壌に撒かれた種子は、誤読も含めて、曲りなりに生きのびたらしい。
先日駅前の美容院でカットしてもらっていた時のことだ。
コロナ禍の行動制限がとりあえず課されなくなって気が緩んでいた私は、美容師さんとのおしゃべりに興じた。
職掌柄当然、知らぬはずはないと思い「セシル・カット」を話題にしたところ
驚くべきは、美容師さんがこの言葉を知らなかったことだ。
ほら、あのベリーショートの女王といわれたジーン・セバーグの髪型よ!
と言ってもまだわからない。
フランソワーズ・サガン原作の「悲しみよ こんにちは」はなおのこと知らないだろう。
映画化されて日本で公開されたのが1958年。
ヒロイン、セシルを演じたのがジーン・セバーグだった。
ゴダールは1958年最良の映画として本作をあげているが、私は観ていない。
同じジーン・セバーグが出演したゴダールの「勝手にしやがれ」の方を観ていて、その時のベリーショートが印象深い。
(ジーン・セバーグ自身は、ヌーヴェル・ヴァーグの寵児となり、時代に祀り上げられた結果、精神を病み、40歳で自死している)
「世界名作の旅」で今もはっきりと記憶に残っているのは
その「悲しみよ こんにちは」の回だった。
原作ではなく、記事の一節がずっと頭の中でリフレインしている。
「セシルのような女の子、私の友だちにはいないわ」
現代のフランスの保養地に取材した一家、サガンがもっぱら描いた中産階級に属する17歳の少女はこう答えている。
虚構のセシルを現代のコートダジュールに探し求めるという趣向は読者である私をすっかり虜にしたのだが、
そうではないだろう、と当時の私は考えていた。
成長期にある自信過剰な精神は、大人の世界を冷ややかに見据えている。
セシルのように・・・
フィクションの少女のほうがはるかにリアルであった。
そしてそのおもかげは、時代が下っても再生産され続けるだろう。
プルーストに倣って言えば、土地の名に深く結びついて・・・
※ 世界名作の旅 (上)(下) 朝日新聞社編 朝日選書(’88)
この記事へのコメント
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です。 もし興味あれば参考にしてください。
ブログの引越しについては、白象さんに同感です。
横着して先延ばしにしていました。
これからもどうぞ宜しくお願いします。