病院にて

「若いでしょう・・・?」
「う~ん、そうでもないわ。たくさんの人に会う仕事だから、よく分かるのよ。
手とか首とか見ると」
なるほどなあ。私は目ばかり見て、医師の華奢な印象にとらわれていたのだ。

ケアマネージャーに付き添われて、4カ月ぶりに執刀医に受診した。
私はOさんのアドバイスに従い、質問事項を絞ってメモしてきていた。
多忙な医師の診察を受ける時の鉄則だという。

実際M先生の受診中に電話が2度かかってきた。
病棟からではないようだ。
私的な用事のようにも聞こえる。
いずれにせよ忙しない風でもなく、ごくしぜんに応答している。
手術衣を一張羅のように着ているのは相変らずだ。
その間、こちらは先ほど撮ってきたばかりのレントゲン写真を食い入るように見つめていた。
明らかに骨盤が歪んでいる。
自分の写真なのに自分でないような気がする。

立ち入り過ぎた質問をしてしまっただろうか。
しかし苦しんでいるのは当の患者である私なのだ。
知りたいのは当然だ。
手術中複数個所骨折したのは確かだった。
そのことはすでに双方既知の事実として話があった。
手術時期をこれ以上遅らせることができなかったことも確認した。
リハビリを続けていく上で、制限すべき動作も特別にないという。
4か月前の写真と比較して、骨がついてきているところもある。
それは専門家の読影によらなければ、素人にはよく分からないほどの小さな白い影だ。
私はほっとして、これから生活していく上での覚悟が決まった気がした。

最後に、ケアマネージャーが差し出す居宅サービス計画書と名刺を受け取る時の医師は至極好意的に見えた。
医師にとって患者の「愚痴」よりはるかに有益な情報になるはずだ。
こういう時のタイミングの良さと適切な対応には、Oさんの百戦錬磨の、ある種のしたたかさを感じる。

「僕は正しい手術をしている」というM先生の一貫した姿勢には衒いも過剰な自信も伺われない。
患者だけが、あれこれ詮索して悩んでいたのかもしれない。

帰りのタクシーの中で、まだ歴史の浅い、ケアマネージャーという仕事や、看護と介護の微妙な線引きについて、ぼつぼつ話すうちに、私はOさんが精神的に想像以上にタフな女性であることに気づいた。


※ 約1年半前に、人工股関節の再置換手術を受けました。難しい手術だったので、リハビリも苦戦を強いられてきました。高齢化にともない、股関節の手術を受けられる方も増えてくると思われます。腕が良いだけでなく、十分話を聞いてくれる医師に会えるよう願っています。

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