バブル世代回想

「あの人、(大手町の)本社から自宅のある長野まで、タクシーで帰っちゃうんですよ。上司のことは言いたくないんだけど・・・」
そういうSさんは、出社前にはすべてのコンセントを抜いてから家を出るという。
プリペイドカードには三千円以上チャージしない。
現金も三千円以上は持ち歩かない。

なるほどSさんとバブル世代はそこまで違うのか・・・
そんな話を聞いてから、すでに10年近く経つだろう。
そして今、バブル世代の贅沢ぶりは今さらながらに私を圧倒した。
アメリカのインフレ、特に車社会でのガソリン代の高騰について話題にした時のことである。
ハワイへ行くと、アレルギーや病気が治ってしまうことがあるのよねえ、と言う私に
Tさんは、ハワイ大好き!もう11回行ったという。
一時は毎年必ず出かけていたという。
ショッピングに夢中になり、ふつうの観光客の知らないようなビーチについて教えてくれた。
以前聞いたことからもTさんはまさにバブル時代を必死で駆け抜けたことが分かる。
あのバカ女と自嘲する物言いは、その頃の自分に対する反省以上に、私を感心させた。
正直なところ私は、彼女の率直さに打ちのめされたのだと思う。
率直さこそ、過去の自分を総括できる理性の表れだ。

ブランド志向は虚栄以外の何ものでもなかっただろう。
一方バブル以前の世代は、ブランドの権威というスケールが気に入らない。
私には私独自の価値観があり、それに従って選択するのだと思っていた。
「でも考えてみると、その方が傲慢かもしれないわね」
Tさんは、「う~ん、大人なのよ」
(背伸びと、やはり時代の空気のせいだった)

ワインの味がわかるようになったのだけはよかった
という言葉にはしみじみとした実感がこもっていた。
違いの分かる女になったということか。
一方私は当時、バブルはどこの世界の出来事か、と思っていた。
新しい都庁舎を見上げ
何とゴージャスな!とため息をついている私がいるだけだった。

だれでも時代の子であることを免れ得ない。
もしバブル絶頂期に就職していたら、私もバカ女になっていたかもしれないのだ。
だけど果たしてTさんのようにさっぱりと突き放して過去を語ることができるだろうか。
贅沢の限りと地に足の着いた幸せを比べて、紛れもなく後者に軍配を上げることのできる境地に打ち負かされたのだった。



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