身にしみる読書 「椅子がこわい 私の腰痛放浪記」夏樹静子著

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夏樹静子は多作なミステリー作家で、若い頃、仁木悦子などとともに、ほんの時間つぶしに読んだ覚えがある。
慶応大学在学中に脚本家としてデビューし、当時の流行作家ぶりから知らぬ人はないだろう。
その人の壮絶な「闘病記」
新潮文庫で重版されているが、私は文春文庫版で読むことになった。

あちこちの医療機関を受診しても、器質異常が見つからない腰痛は、ついに心身症と診断され、身体の激しい痛みを引き起こす原因が心因性のものと分かる。
「心身症」「心療内科」という言葉が一般に流布するようになったのもこの頃のことだ。

股関節手術後の不調に悩まされている私は、身につまされるような思いで読み、病は違えど、現代西洋医学で解明・治癒する病気は限られたものに過ぎないのだと、改めて実感した。
反響は大きく、著者はたくさんの読者から共感する手紙を受け取ったそうだ。

似た症状でも病の原因は様々であろう。
間違った治療により時間を空費し、お金を浪費する。
それにしても著者の医者行脚は半端ではない。
性格的な固執癖がとらせた行動かもしれないが、その性格こそ病をつくりだす一因であったようだ。
現代医学は、自身でも気づかない潜在意識が、器質異常を伴わない症状、それも生死さえ揺るがしかねない激烈な症状を引き起こす、という事実にようやく言及するようなったといえる。
様々な代替医療が生まれる背景だ。
科学の名のもとに、西洋近代医学のみを優遇した医療制度も反省を促されつつある。

今は亡き、私の主治医だったドクターは、「脳内リセット」を提唱し、その主張は各方面で引用されてきたが
著者がついに「絶食療法」によって過去の自分を一時的にでも葬り去ったのはまさに、心身のリセットだったのだ。
しかし、読後、名医がいかに得難いものか、そして診療時間のあまりの短さが、医者との良好な関係を築きにくくさせているかを痛感した。

医療はそもそも「仁術」だった。
その側面が長らく軽視されてきたのではないだろうか。


※ 腰痛放浪記 椅子がこわい  夏樹静子著 新潮文庫(’03.7)

この記事へのコメント

白象
2022年07月13日 07:28
空さま
読書範囲の広さに驚いています。 読書量もスゴイですね。 手術後の不調に悩まさせられているようですが 改善することを願っています。 暇つぶしに「ノルウェイの森」を読んだ私の感想(駄文)を https://hakuzou.at.webry.info/202205/article_2.html に載せました。 もし興味あれば読んでください。 恥ずかしい内容です。
2022年07月23日 20:31
白象さん、ありがとうございます。
白象さんの書評は、視点が明確で、お人柄を感じさせられます。
空も、村上春樹派ではないので、熱心な読者ではないのですが、レイモンド・チャンドラーの翻訳に限っていえば、新しいだけあって清水俊二訳より良いと思います。
偏見を持たずに読むことが大事ですね。

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