ムーミン全集

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本が大衆的に流布したのは大正末年頃からだ

と、関川夏央は「文学は、たとえばこう読む」の冒頭に述べていた。

あろうことか、私の入院中に、妹から連絡があり、母が骨折したという。
よくある大腿骨転子部骨折である。
保存療法を避け、手術に踏み切った。
幸いなことに高齢にもかかわらず術後も順調に経過した。

リハビリ入院中の母から来たハガキの末尾に
「いっぱい本をよみたいです」
とあったのに驚いた。
足の方は回復しつつあったが、認知機能の低下が危ぶまれる。
ハガキの文面も、母らしくない。
懐古的でセンチメンタルなものだった。
しかし、本を読みたい、という意欲をみせている。
半信半疑ながらも、とりあえず朗報と受け取った。

文庫本のムーミン全集を取り寄せて、1冊ずつ持参することにした。
トーベ・ヤンソンの挿絵、美しい装丁に魅せられる。
北欧らしい、ダイナミックな自然、ユーモラスで個性的、不気味と滑稽味をあわせもつキャラクター、冒険心と家庭的なエピソード・・・
童話の、骨格の確かなストーリーとシンプルな文章が、根気の無くなった母に最適ではないか。

文明批評あり、トーベ・ヤンソンは、さすがスウェーデン語系フィンランド人だと思う。
入院中、無気力に陥ることもあるだろう。
そんな時、子ども心にかえって童話など読んでみるのはどうだろう。

母は昭和2年生まれ。
新聞小説を読んでから学校に行く、という小学一年生だったそうだ。
ちょうど関川夏央が指摘する、読書の大衆化と軌を一にする。
女学校にあがる時、父親は与謝野晶子訳の源氏物語を贈った。
(源氏物語が一般に読まれるようになったのも、この頃あたりかららしい)

関川夏央によれば

普通人が本棚を本で埋めたがる時代は、だいたい七十年つづいて一九九五年頃終わった。



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ムーミン童話限定カバー版 全9巻BOXセット (講談社文庫) '14.8

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