自己免疫疾患の謎

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自己免疫が原因となる疾患は、増えつつあるようだ。
「自己免疫疾患の謎」というノルウェー語から翻訳された本書を読んで、これは現代病なのだろうか、と様々に考えさせられた。

一例を挙げれば、本書で言及されているように、体内の細菌フローラが免疫システムに影響を及ぼしているとすると、先進諸国では細菌フローラの多様性が乏しく、免疫システムのバランスが崩れ、自己免疫疾患の増加につながっているのではないか、と推測される。
しかし、相関関係と因果関係をとり違えてはならない。

著者の母親は、インド出身の医師で、娘を出産後に関節リウマチを発症し、51歳で亡くなっている。
その苦しみをつぶさに見てきた著者は、関節リウマチを研究対象とし、創薬にとりくむ。
駆け出しの女性医師が、病因を追求しながら、患者救済の道を探る物語だ。

身体にとって外敵である異物を攻撃する免疫システムが、何故自己を抗原とみなし攻撃するようになるのか。
そこには長い進化の歴史がからんでいるように思われる。

アニータは関節リウマチが女性に多いことに着目し、性ホルモンが関係しているのではないか、と推測する。
この場合、サイトカインと総称される免疫調整因子が決め手になる。
関節リウマチには3つのサイトカインが関与し、その作用機序から創薬された三種の生物学的製剤が、2016年には世界で最も売れた医薬品の上位5番に入っている。

新薬の開発には多額の研究費を必要とする。
もし成功すれば大きなリターンが見込める巨大な市場を控えている。
新型コロナウイルスの災禍にさらされている今日、製薬会社はこぞってワクチン開発に取り組んでいるが、重篤な副作用がみられるなど、前途多難である。

ウイルスの脅威と免疫システムは、人類の生存に哲学的な問いを投げかける。
免疫学は進歩著しい分野で、新たな知見が先行する理論を覆してゆく。
アンチエイジングが注目されているが、認知症の特効薬がないように、老化は人類にとって宿命だ。
私たちは母親の胎内に宿った時から、様々な試練さらされながら、自らの免疫系を鍛えてゆく。
老化の果ての免疫系の混乱と弱体化によって、個体に死が訪れる。
癌あるいは肺炎…
著者はそれを次のように表現している。
「システム全体がしだいに自己免疫になっていく(免疫システムが体内の臓器を抗原と考えて攻撃してしまうという意味)」

加齢とともに、身体は弱い炎症状態になるという。
それが余命を決定する。
アンチエイジングとはそれを防ぐ手立てのことであるが、果たして運命に逆らうことはできるのだろうか。



※ 自己免疫疾患の謎  アニータ・コース
            ヨルゲン・イェルスター 著  青土社(’19.12)

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