夢見る帝国図書館
昨今、買う本といえば、図書館でもなかなか借りられない人気の新刊本ぐらいになりました。
本書も100人以上の予約者が順番待ちしているので、とうとうしびれをきらしてネット書店に注文しました。
図書館好き、本好き、…何よりも本を読む時間と空間、自由を愛おしく思う人間にとって、待ってました!と言いたくなる魅惑的なタイトルです。
読書家が帝国図書館を夢見るのではなく、帝国図書館が夢を見るのです。
老若男女、身分、卑賎を問わず、無料で本を貸してくれる図書館という存在。
一部の特権階級しか本を手に入れることができなかった時代からみると、まさに知の大衆化、民主主義の基礎をつくってきたとも言えます。
司書も書庫も共有財産
図書館業務に費やされる膨大な予算を考えると、現在ある図書館というシステムを最初に考えた人は何という輝かしい遺産をのこしてくれたことでしょうか。
さて本書は、戦中戦後の帝国図書館の歴史と、図書館に思い入れ深い個人の歴史が交錯しつつ進行します。
帝国図書館を主役にした物語を書くことを思い立った一人の女性の数奇な運命が、ミステリー仕立てで上野周辺の戦後の風俗とともに描かれます。
現在、「国際子ども図書館」になっているのが、かつての帝国図書館、東京府に移管された後、再度文部省の管轄に戻った「東京図書館」の末なのです。
図書館だけでなく、美術館、動物園もある上野公園は、ちょっとした非日常への入口です。
漫然と上野の森を散策するだけでなく、かつての寛永寺境内近辺で起きた出来事に思いを馳せるのも一興です。
※ 夢見る帝国図書館 中島京子 著 文藝春秋(’19.5)
読書会をしたいと思っている人、読書会に参加したいと思っている人にとって、ヒント満載の本。
読書は一般に孤独な営為と考えられているけれど、そうではない。
読書体験を共有することで新たなコミュニティが生まれる。
著者の主催する「猫町倶楽部」で取り上げた課題本が巻末に列記されており、ブックガイドにもなっている。
※ 読書会入門 人が本で交わる場所 山本多津也 著 幻冬舎(’19.9)
折口信夫全集の中で、最もよく参照するのは、索引の巻です。
全集を読み通すことは至難の業。
膨大な「折口学」の中から抜粋されたものを、叢書のかたちで出版された本書で読みました。
気軽な拾い読みは、重く深い読書への誘いであり、一方辺境への旅、はるか太古への遡行です。
常世論、鬼と山人と神の関係、盆踊りのルーツ、…etc.
神々の系譜は、あちこちで習合しており、もはや辿りようがないかのようですが、私たちが現在でも慣習的に行っている行事に、祖先の思いが込められ、文化が重層して今の形になっていることを考えると徒や疎かにできないと感じます。
所作の一つ一つや小道具にも意味があり、それを踏襲することは、祖先の霊と一体化することだとさえ思います。
「文学を愛づる心」(1946)に、源氏物語を「擁護」する一文を見つけました。
眼から鱗でした。
以下に引用します。
自分の犯した罪の為に、何としても贖ひ了せることの出来ぬ犯しの為に、世間第一の人間が、死ぬるまで苦しみ抜き、又、それだけの酬いを受けて行く宿命、・・・
くるしみて この世をはりしひと人の物語せむ。さびしと思ふな
これが折口信夫の源氏物語観なのです。
助川幸逸郎先生がおっしゃる宇治十帖ばかりか、源氏物語本編もまさに「近代」文学!として読めるのではないでしょうか。
※ 折口信夫 山のことぶれ 平凡社(’19.10)
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